オータムゼロ

理想の秋

秋は気候が落ち着き過ごしやすいことから、さまざまな活動に向いているとされ、『読書の秋』『行楽の秋』『芸術の秋』など多くの呼び名を付けてられている。
私も四季の中で過ごしやすい季節を一つ選べと言われたら、夏の暑さは和らぎ、冬ほどの厳しい寒さもまだ訪れていない秋を選ぶだろう。冷暖房費も浮くので。だが、そんな気候の良さとは裏腹に、毎年この季節になるとなぜか体の調子が悪くなるので、私は密かに『体調不良の秋』と呼んで実快適度としてはプラスマイナスゼロの評価をつけている。

 

そんな秋ももうすぐ終わりを迎えようという頃だが、今年は今更ながらリングフィットアドベンチャーを始めてみるなど貧弱な私なりに『スポーツの秋』を楽しんだ。当人比だが多少は体力がつき健康になったような気がする。健全な心身に憧れがないわけではないので嬉しい限りだ。
元気であるというだけで楽しめることも増える。例えば食事などがそうだ。お誂え向きに秋は美味しいものが多いので、さつまいもをはじめ柿や栗にきのこやさばなど、『食欲の秋』も十二分、いや十五分くらい堪能した。おそらく不摂生レベルで言うとリングフィットと合わせてプラスマイナスゼロである。

 

食べ過ぎの話はさておき、秋は少しセンチでアンニュイな気分に浸れる季節でもある。
枯れ葉の立てる乾いた音、頬で北風を感じつつ飲む温かい紅茶、色づいた並木道。これら全てからどことなく感じる『哀愁』こそが秋の持つ最大の魅力だと私は思っている。胸に染みるような物悲しさを咀嚼していると、日常で荒んだ心が浄化されていくのを感じるのだ。
この魅力をじっくりと味わいたいのならば、のんびり散歩をしたり、公園のベンチからぼんやりと景色を眺めるなど、自然を感じる場所でゆっくりと物思いに耽る事が理想なのだろう。しかし、そういった余裕がない時には、庭やベランダにでる、あるいは部屋の窓を開けて外を眺める時間を作るだけでも、空気の冷たさやくすんだ空の色などから、秋が持つ独特のセンチでアンニュイな雰囲気を感じることができる。これならばデスクワークの休憩時、体を休めるついでに気軽に心の洗濯も行える。なお、先日窓から外を眺めていたら、窓枠の上で突然巨大カマキリ同士の死闘が始まったため、私はヒロインの如く両手を組んで「どっちの勝ちでもいいからできるだけ見えないところで死んでくれ」と祈ったりしたので、心の汚れ具合はプラスマイナスゼロである。